一昨日のトリプルタラクの判決に続き、今日も、今日の午前に下された最高裁の判決が大きく報道されています。

 私のブログ活動としては、一昨日の検討の続きか、それか、やはり最高裁の去年12月の「Liquor Ban」(幹線道路から500m以内での酒類提供禁止。ホテルやバーで一気にお酒が飲めなくなった)の判決文を遅ればせながら読んで、認識が改まった(そんなに無茶苦茶ではない)のでそれを書くか、と思っていたのですが‥。
 せっかく今日出された判決ですので、以下をご紹介させていただきます。




Live Blog: Privcy is a fundamental right, says SC
(生中継:最高裁、プライバシーは基本的人権と認定)

 本件は、インドで個人識別(ID)システムとして導入されている、「アドハー(Aadhaar)プログラム」が、プライバシーの権利を侵害しているとして提訴された事件です。
 
 少し長い前置きになりますが‥。
 「アドハー」には、既に10億人近くが登録されているようなのですが、世界最大のIDシステムとしてだけではなく、指紋・虹彩(眼球の前面の膜)といった生体情報の提出も求められ、それらをデータベース化しているところが、世界的に注目されているようです。
 かかる情報を元に、例えば登録者は小売店で指紋認証だけで支払いを済ませる(ひもづけられている銀行口座で決済される)というシステムも、すでにリリースされています。

 他方で、このような個人識別情報を取得されることについては、ハッキングや、保有主体自体(今回は政府)の悪用、という懸念も、想起され得るところです。(例えば、日経BP社のCIOのこちらの記事をご覧ください。
 また、アドハーの制度設計が、これに登録していなければ、税の還付や社会保障を受けられない、果ては航空券も買えない、などという方向にその適用が拡大される傾向があるようで(後掲のBloomberg)、そうすると、実質的には、自分の生体情報の提出が国家に強制されている、ということにもなります。

 この裁判は、以上のような状況下で、元高裁判事の方(現在91歳)が原告となり、PIL(Public Interest Litigation)というカテゴリーの訴訟として、ダイレクトに最高裁に申立てをしたもの、ということのようです。
 (なお、PIL自体についても、いずれ投稿をまとめたいと思っています。)
 

 果たして、最高裁は、インド史上初めて、プライバシーの権利を、憲法上の基本的権利として認めました。

The Times of India(TOI)
Live Blog: Privcy is a fundamental right, says SC

(生中継:最高裁、プライバシーは基本的人権と認定)

Bloomberg/Quint
Privacy Is A Fundamental Right, Rules Supreme Court
(最高裁、プライバシーは基本的人権と認定)

 記事の見方ですが、前者の「Live Blog」は、あたかもスポーツ中継のように、裁判の様子(何時何分に基本的人権と認められた!)やその後の関係者のコメントが時系列でどんどん並べられていっています(今も更新中です)。のみならず、申立人と相手方の言い分も簡潔に(時系列的に)説明してくれているので有難いです。注目判決が出る日は、TOIのライブブログに注目です。
 後者のブルームバーグは、午後になって出てきた記事ならではで、本判決の意義等に関する識者のコメントが複数載せられており、これまた勉強になります。2つ読むと全体像もより掴める感じです。


 結論は、各記事の標題のとおりで、より詳しくは、

The “right to privacy is an intrinsic part under Article 21” that deals with the right to life and liberty, the top court said. 

とBloombergの記事にあるように、最高裁は、プライバシーは、憲法21条という条文に内在する(
intrinsic)権利であり、生命と自由に関わる権利である、と認めた、ということのようです。
 従前、インドでは、プライバシーは憲法上の権利ではないという裁判例が相次いていたようで、それを覆し、憲法上の人権を新たに明らかにした、ということになります。
 なお、インド憲法21条は、生命(life)と自由(liberty)の保護(protection)をうたった条文で、文言としては、このlifeとlibertyにprivacyが読み込まれた、ということになります。


 今回のこの判断について、法律論として論じたいことはいろいろあるのですが(そもそもプライバシーはどういう意味と理解されているのか、など)、それはさておき、一つだけ、基本的人権か否かが議論になっていて、基本的人権だと認められた、ということに、どういう意味があるか、というと‥。
 公権力は、権利と認められた国民の利益を侵害しないように各種政策を実施する責任を負うことになる、ということかと思います。もっと有り体に言えば、より慎重に事を進めなければならないということです。
 個人情報(それも生体情報)が、漏洩したり、事前に聞いていない目的で使われたりしないよう、最善の措置を講じるべき義務も出てくるでしょうし、更には、意に反して生体情報を提出させるようなことも許されず、そうさせるちゃんとした理由があるんです、ということが公権力側で説明できなければ、制度の見直しが求められることにもなるでしょう。
 加えて、プライバシーが権利と認められることの射程は、対国家にとどまらず、例えば企業と個人の関係についても、より個人の権利を守るべき方向で規律が及んでいく可能性も当然あります。
 
 余談になりますが、冒頭で触れた酒類提供の禁止の裁判例を読んでいたら、インドでは、お酒を売ることは権利として保障されているわけではない、という認定が書かれていました。これはインドの歴史的風土的土壌に由来する考え方だと思いますが、それはともかく、だからこそ(権利でないからこそ)、飲酒運転の防止という目的のもと、酒類提供は、あっさりとダメ出しされている、とも評価できるわけです。
 

 今回問題になった
アドハー、少し前までは、インド在留の外国人にも(日本人にも)納税の関係で登録義務があるのではないか、という点に疑義があったのですが、今年5月に政府の告知があり、インド国民以外には登録義務は課されないことが明確にされました(その告知はこちらです。)。ですので、本件判決は、直接には日本人には関係ない、ということにはなります。
 しかし、上記に述べてきた、プライバシーがインドで(も)人権として認められたことの意義からすれば、本件判決は、わたし達のようなインド在住外国人にとっても、喜ばしいものだと考えられます。

 何より、インドの裁判所はどのような判断をする傾向にあるのか、進出日本企業や在留邦人が救済を求める最後の砦たり得るのか(司法機関としての信頼できるのか)を、調査の一目的としている私にとって、今回の判断は、安心できる結論でよかったです。
 今回の最高裁の判断の対象は、プライバシーの権利性だけで、アドハーがプライバシー権を侵害していないか否かまでには及んでいないようです。引き続き着目してまいります。
 

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【使いたい英語表現10】     

( ※私の復習メモであり本当に適切かの保証はありません)     


「はじめまして!」
(メールでの冒頭の挨拶)  


→  Dear Yanai San, Very nice to "e-meet" you !
(これは常識なのかも知れないが私は初めて知ったので。まだ直接会っておらず初めてのやり取りがメールなのでe-meetというのは面白かった。なお、彼は終わりの文句も「Thanks and Best Regards,」となっており、少しカジュアルな感じが親しみを感じさせてこれもよかった。) 

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